【大人の日】
それは、スーパーで見かけてからずっと気になっていた。気になってはいたものの、なかなか買い辛く、無駄遣いではないけれど手に取り辛かった。だから、何ヵ月も買わずにいたのだ。
「な、なあ徹……」
スーパーの袋を手にしたままの当夜は、ソファーでコーヒーを飲みながら本を読む恋人に近づく。袋をテーブルの上に置き、徹の足元にしゃがみこんで見上げる。
「あのさあ。今日の昼飯なんだけど、パスタでもいーか?」
「別に構わないが、珍しいな」
口をつけていたコーヒーカップを離し、徹はわずかに首を傾げた。
「うん、食べたくて。二種類買ってきたんだけど、徹はどっちがいい?」
「お前が好きな方を食べるといい」
「う……ん。えっと」
歯切れの悪い様子の当夜に、徹はなんだと眉の間を狭める。
「大人向けの商品らしいんだけどさ、これを食べてる徹が見たいなって、思って。だから、徹が好きな方を選んでほしいんだ」
「また、お前は……」
いつもと様子が違うと思ったらこれだ、という顔をされた当夜は、乾いた笑い声を漏らした。俯いた当夜を見下ろした徹は小さく息を吐きだし、当夜の頭に手を置く。
「仕方ないな、見せてみろ」
しかし、手を差し出されると嬉々として満面に笑みを浮かべて徹を見上げる。
「……うん! あのな、こっちは蟹でこっちは粒のたらこらしいんだ!」
生気を取り戻した当夜の様子に徹はいささか目を見開いたが、和やかな笑みを浮かべて当夜を見つめた。たまにはこんな日もいいか、と――
『忘却のカグラヴィーダ』から徹×当夜。
11月22日『大人の日』記念SS。
ちなみに私は食べたことがありません。
初めて知ったのですが、とっても美味しそうで商品ページ見ながらドキドキしました。今度買ってみようかなあ(*´╰╯`๓)♬*゜[0回]