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【わんこ2匹】
「……こんな所にいたのか」
 肩で息をしている徹は膝に手をつき、見下ろした。校庭に咲いている桜の木の下でジャージを下敷きにして寝ている幼馴染とその友人の姿に呆れ果て、ため息が漏れ出る。
「考えられん。馬鹿なのかコイツらは」
「あーあー、草だらけになっちゃってまあ」
 委員会の初顔合わせが終わってから迎えに行ったにも関わらず、教室にいない当夜を捜し回った徹に付き合った加護は小さく笑い声を零した。
「幸せそうに寝てるなあ」
 口の端からよだれを垂らし、いびきをかいて眠る赤木の腕を枕にして大の字で寝転がっている当夜を見た徹の眉間に皺が寄る。加護は険を帯びてきた徹の雰囲気を感じ取り、さっと腕まくりをした。
「馬鹿を起こすか」
「ああ、そうしよう」
【END】

【どっちがどっち?】
 当夜は赤い目をきょとんと丸くして目の前の教師を見つめた。
「だからだね、どうしても君に新入生代表の挨拶をしてほしいんだよ!! 渋木当夜くん!」
 肩をつかみ、力いっぱい力説をしている姿に首を傾げてしまう。隣に立っている徹も苦味を帯びた顔つきになっている。
「あの……」
「いやあ、君の入試の成績は実に素晴らしかった!」
「はあ、そうでしょうか」
 二人はチラチラと目を合わせては困惑に顔を背けた。先程から何度か口を開いているのだが、この教師といったら一向に話を聞こうとしてくれない。
「せんせー、渋木当夜は俺の方です。こっちは」
「そんなはずがないだろう! 君は黙っていなさい」
 これだから馬鹿なお調子者はと語っている顔を向けられた当夜は、じゃあ口を閉じていよう、と上唇と下唇をきゅっと合わせた。
「いえ、本当です。僕は暁美徹で、彼が渋木当夜なんですが……」
「暁美くん! 彼もなかなか良い成績だったな。だが、君には遠く及ばないよ!」
「はあ、そうでしたか」
 額に手を当てて困惑する徹と、笑いを噛み殺す当夜を交互に見た教師は目をきつく吊り上げる。
「なにを笑っているんだ!!」
【END】


【昼寝】
「……コイツは、また」
 布団の上で寝扱けている当夜を見つけた徹は長いため息を吐き出した。猫のように丸まり、すーすーと規則正しい寝息を吐いている当夜の横に座る。縁側の窓は全開で、おそらく干していた布団をしまい込んでいる途中で寝てしまったのだろうと徹は予測した。
 最近は運動部から頼まれた試合や、花澄の見舞い、教師から頼まれたくだらない雑事に翻弄されていた。だから、こうしていても仕方がない。だが、窓を開けっ放しにしているのは良くなかった。
 徹は立ち上がって窓を全て閉め、当夜の横に寝転がる。日の匂いをいっぱいに吸い込んだ布団は確かに気持ちが良く、眠りの世界へと誘いかけてきた。当夜を抱き締めると温かな春の陽気が胸に広がってくる。
(ああ、幸せだ)
【END】

【二度寝】
(……ん?)
 目を開けた当夜は、さらさらとした肌触りの良いものが自分の頬に触れていることに気が付いた。それが徹の髪と着ているシャツであり、自分が徹の腕に抱かれていたという事実にも。
 顔を上げると、当夜の好きな徹の整った顔が見える。当夜は徹の胸元に擦り寄ると、目を閉じた。しっかりと背中に腕を回して抱き付き、足も絡ませる。
 息を吸うと徹の匂いが胸に入ってきて、それだけで満たされる気がした。
【END】

【欠けた記憶の淵で】
 窓の桟に手を置いて空を見上げる。朝起きた時からしとしとと雨が滴り落ちていて、それは昼を回っても変わらない。当夜は感情のこもらない目で曇天を見上げると、ふっと息を吐きだした。
「……雨、かぁ」
 当夜は雨が嫌いだ。彼の記憶に微かに残る記憶によると、なにかがあったらしいが、それがなにかは分からない。幼い頃のことを当夜は覚えていないのだ。それは花澄と一緒に出かけた時に事故にあったからだと両親に言われるが、なんとなく違和感がある。
 唇を噛みしめて、俯いてしまう。
 雨粒が地面に落ちる音を聞いていたくなくて、ずっとイヤホンをつけて曲を鳴らしていた。花澄が気に入ったと言う五人組のアイドルグループの曲は無駄に明るく、時に切なさを胸に抱かせる。一番人気があるらしい、妹キャラクターで売っている愛嬌のある少女――たしか、アヤといっただろうか。トーク中はひたすら作ったような『可愛い』を固めた甘ったるい声で話すのだが、歌う時は声をがらりと変える。曲によって印象を変え、当夜を驚かせた。時には甘く可愛く、時には強く格好良く、時には優しく切ない。新しい曲を聴く度に彼女の歌が好きになっていく。
 けれど、それは慰めだけにしかならない。
 なにかを口にしようとしても、できなくて。当夜は眉を強く引き寄せる。
「当夜」
 その体を、後ろから誰かが抱きしめた。当夜は体ごと振り向き、その人物の首に抱き付く。当たり前のように受け止められて、当夜は顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
「どうした」
 それでも頭を撫でて自分を落ち着かせようとしてくれる幼馴染に、当夜は微笑む。彼の青色の髪は当夜の好きな快晴を思い出させる。
「なんでもないんだ。――いつものこと、だから」
【END】

【急変】
 砲丸を受け止めた腕を振るった当夜は、ふうと息を吐きだした。痛みなどはなく、この腕で大切な幼馴染を守れたという誇りだけがそこにある。
「なあなあ!」
 その肩を気軽く叩いて声をかけた者がいた。入学して、新入生代表の挨拶を自分と勘違いされた徹がして―どれだけ言ってもあの教師は当夜の名前のまま徹を壇上に立たせたものだから、後で皆から不思議そうにされた―オリエンテーションが済んですぐの体力測定で普段通りにやった当夜の運動神経に皆が口をぽかんと開けたままになってから、これまで積極的に自分自身に話しかけてきた人物はこれが始めてだ。
 なぜか皆が皆、徹を介して当夜に話しかけてきた。それは当夜を守ろうとしての徹の判断であったり、どうやればこういう人間ができるのか、優秀すぎる頭脳と身体能力を持つ当夜が化け物のような存在として把握されたからか。とにかく、入学してから一ヵ月、当夜に友人と呼べる存在はいなかった。
 当夜自身は特に気にしていなかったし、しばらくしたら落ち着くだろうと思っていたから自分から話しかけたことも少なくはなかった。
「お前ってスッゲーな!」
「うわっ」
 けれど、こうして肩をガッシリ腕で抱かれたことは初めてで、突然の変化に目を白黒させる。気づけば周りを人が囲んでいた。
「この間学校に入って来た変な奴を捕まえたのお前って、マジ!?」
「えっ……た、多分」
「飼育小屋で飼ってる太郎を大人しくさせたのもお前なんだろ?」
「た、太郎?」
 捨てられたらしい雑種の犬を飼っているのだが、恐ろしく凶暴な犬で誰にも懐かず、餌をやろうとした飼育委員にもよく噛みついて問題になっていた犬だ。だが、ここ最近は特に問題になるようなこともなく、大人しく過ごしている。
「あの白い犬? 別に、俺なんもしれないぞ。アイツも、ただ顔が怖いだけでそんな悪い奴じゃあ……」
 勢いに押されながら当夜が答えると、なぜかおーっという歓声が上がった。
 それを外野から見ていた徹は、面白くなさそうな顔をしていた。いくら本人が平気だと言っていたとしても一度当夜を保健室に連れていきたいのだが、それどころではなさそうだ。
「おーい、そろそろ解放してやれよ」
 だが、盛り上がる空気を切り裂くような声が徹の隣から上がる。徹が顔を上げると、その人物と目が合った。
「口で大丈夫だって言ったって、本当かどうか分からないだろ。ソイツ保健室に連れてくから」
 確か保健委員の加護だ、と徹は思い出す。加護はハイハイ失礼~と言いながら囲いの中に入っていき、当夜を抱き上げた。それを見た徹は目を見開き、
「はあ!?」
 と叫ぶ。
「じゃ、お前らは先に戻ってろよ」
「おー」
 加護と仲が良いらしい赤木が手をぶんぶんと大きく振る。だが、徹は加護から目を離せない。なぜなら加護は当夜を所謂お姫様だっこといわれている姿勢で抱えたからだ。当夜も胸の前で手を握っていて、身体を硬直させている。
「あ、あのさ加護……俺平気なんだけど」
「ヒーローはなにも言わず運ばれてればいいんだよ」
 よくない! と叫びたかったが、それはどう考えても目立ちすぎてる行為なため喉の奥にしまい込む。その代わり、どうしてこうなったんだと徹は呟いた。
【END】

【不公平】
「せんせー、それは不公平だと思います!」
「名簿順じゃなくて席順がいいです!」
「いや、こういうのはやっぱ名簿順だろ!!」
 次々に意見が出てきて、当夜はははと口の端を歪ませて笑う。机に腕枕をつき、のんびりとした様子で教壇に立つ教師を見上げた。
「お前たちなあ……」
 流石に教師も呆れているのか、言葉にならない。
「渋木ー、俺と同じ班になろう! なっ!?」
「いやっ、俺らとだろ!」
「どっちでもいいけどなあ」
 なにを言い争ってんだよと当夜は言うが、クラスメイトにすれば切実なお願いだった。それは、来週行われる調理実習の班決めだったのだが、当夜の料理の腕前を知った者から不平不満が出たのである。
「そうだなあ、じゃあ渋木は先生と組むか」
 そう教師が言うと、えーっという雄叫びが上がった。隣のクラスから注意が跳んできそうな程の大きさに、当夜は乾いた笑い声を零す。
【END】

【命を食らう程に】
「おっはよーう、カグラヴィーダ!!」
「渋木当夜……なにをしている?」
 自分の目を覗きこんできた子どもの顔を見たカグラヴィーダは、呆れを滲ませた声を出した。だが、当夜本人はなにが悪いのか分からないようで、え? と小首を傾げている。
「そこは乗る所ではないぞ」
 リフトが傍にないということは、当夜はカグラヴィーダの目元までよじ登ってきたのだろう。スタッフが大騒ぎしている声が遥か下から聞こえてくる。当夜はんーと言うと、にっと歯を見せて笑った。
「やっぱ、おはようは顔見て言いたいだろ」
 だから来たんだぞー、と当夜はカグラヴィーダの人間で表すと鼻の辺りを撫でる。この少年はこう突拍子のない行動ばかりとって、カグラヴィーダを困らせることが多かった。だが、それだからこそ面白いのだ。
「そうだな」
 小さい体で常人の倍ほどの力を持つこの少年が、愛おしくてたまらない。
「おはよう、渋木当夜」
【END】

【じゃれ合い】
 当夜が名前を叫びながら駆け寄っていくと、相手はそれに気づいて手を振った。
「久しぶりだな、剣司!」
「よっす、当夜! 元気だったか!?」
「おう!」
 犬がじゃれつくように飛びついた当夜を、剣司は胸に受け止めてぐるぐると回す。当夜はそれにはしゃいだ声を上げた。剣司は当夜を地面に下ろすと、至近距離からにっと笑いかける。
「今日の試合、楽しみだな」
「俺、今日は絶対負けないかんな!」
 そう言って当夜が拳を突き出すと、剣司は俺も負けねえぞと拳を軽くぶつけてきた。二人は大会の会場になっている体育館に向けて歩き出す。
「なんで今日は気合い入ってんだ?」
「それがさあ、徹が勝ったら褒美をやるって言うからさあ」
「……徹って幼馴染だよな?」
【END】

【王様が言うなら】
「なーなー徹」
 畳に直に座ってる自分の肩に顎を置いて甘えた声を出す当夜に、徹は奥歯を緩く噛んだ。先程から微妙に無視をしているのだが、当夜にそれを気にしたフリはない。いや、気にしたら負けだとでも思っているのかもしれなかった。
「なんだ」
 根気負けした徹が訊ねると、当夜はぱあっと顔を輝かせる。
「今度の試合、来てくれよ!」
「……その日はすでに予定が入っていると伝えたはずだ」
 当夜が自分の試合を見に来てくれと徹に言うことは珍しい。だから行きたいという気持ちがないわけではなかったが、その日はさらに珍しい父からの呼び出しがかかっていて行くことがどうしても出来ないのだ。
「どーしてもダメなのか」
「どうしてもなんだ」
 頬を膨らませる当夜の頭を撫でて機嫌を取ろうとしたが、当夜は犬のように頭を勢いよく振るって徹の手を弾く。頑固なところのある当夜は、こうなったら単純な言動では機嫌を直してくれない。
「分かった、用事が終わったらすぐに行ってやる」
「……終わってるかもしんないじゃん」
 ため息を吐いて提案してみても、当夜は唇を尖らせてそっぽを向く。
「なるべく早く行く。それと、優勝したらなにか褒美をやる」
 重ねて言うと、当夜は長い睫に囲われた目をパチパチと瞬きさせた。きょとんと澄んだ目で徹を見つめると、なんでもいいのか? と訊ねてくる。
「ああ、なんでもいいぞ」
「じゃあさ、今度の日曜は絶対開けといてくれよ! 俺、見たい映画があるんだ」
 ころっと機嫌を良くした当夜に詰め寄られた徹は頬を緩ませてああ、と言った。
【END】

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大人な君が見たい!

【大人の日】
 それは、スーパーで見かけてからずっと気になっていた。気になってはいたものの、なかなか買い辛く、無駄遣いではないけれど手に取り辛かった。だから、何ヵ月も買わずにいたのだ。
「な、なあ徹……」
 スーパーの袋を手にしたままの当夜は、ソファーでコーヒーを飲みながら本を読む恋人に近づく。袋をテーブルの上に置き、徹の足元にしゃがみこんで見上げる。
「あのさあ。今日の昼飯なんだけど、パスタでもいーか?」
「別に構わないが、珍しいな」
 口をつけていたコーヒーカップを離し、徹はわずかに首を傾げた。
「うん、食べたくて。二種類買ってきたんだけど、徹はどっちがいい?」
「お前が好きな方を食べるといい」
「う……ん。えっと」
 歯切れの悪い様子の当夜に、徹はなんだと眉の間を狭める。
「大人向けの商品らしいんだけどさ、これを食べてる徹が見たいなって、思って。だから、徹が好きな方を選んでほしいんだ」
「また、お前は……」
 いつもと様子が違うと思ったらこれだ、という顔をされた当夜は、乾いた笑い声を漏らした。俯いた当夜を見下ろした徹は小さく息を吐きだし、当夜の頭に手を置く。
「仕方ないな、見せてみろ」
 しかし、手を差し出されると嬉々として満面に笑みを浮かべて徹を見上げる。
「……うん! あのな、こっちは蟹でこっちは粒のたらこらしいんだ!」
 生気を取り戻した当夜の様子に徹はいささか目を見開いたが、和やかな笑みを浮かべて当夜を見つめた。たまにはこんな日もいいか、と――

『忘却のカグラヴィーダ』から徹×当夜。
11月22日『大人の日』記念SS。
ちなみに私は食べたことがありません。
初めて知ったのですが、とっても美味しそうで商品ページ見ながらドキドキしました。今度買ってみようかなあ(*´╰╯`๓)♬*゜

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好物

「徹っ、おやつ持ってきたぞー」
 足でふすまを開けた当夜が、両手に持ったおぼんを置けるようにと徹はちゃぶ台の上から勉強道具を下ろす。宿題はもうすでに終わり、明日の予習に入りかけていたところだったので丁度良い。
「今日はみたらし団子な!」
 はいっと言って差し出された器に盛られているみたらし団子は、しっかり焦げ目が入っている。つるりとしているのも良いが、焦げ目が入っていて硬めの方が好きな徹の好みに合わせてくれたのだろう。
「いただきます」
 皿から一本取って、食む。あまじょっぱいタレが口の中に広がって、徹は口に笑みを浮かべた。一本を食べ終わり、二本目を黙々と食べていると当夜と目が合う。
「……なんだ?」
 口にタレがついているのかと気になったが、当夜は首を振るってとろけるような笑顔を見せた。
「徹は可愛いなって」

END

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君の心がわかる日

「ギール」
 名を呼ぶと、彼は振り返って首をわずかに傾げさせた。柔らかに相好が崩され、温かみのある声でどうしたの? と問いが返される。
「べつに……なにも」
 自分から呼んだくせに素っ気なく言い返し、顔を背けたエディスにギールは空気を揺らした。肩を震わせて笑いながらもギールは前を向いて、また歩き出す。
 その背を頭を上げて見ていたエディスは、ふっと視線を落とした。そこにはエディスのものよりも随分大きな手があり、エディスはわずかに項垂れる。ほんの少し先で揺れている手を見ていても自分から声をかけることなどできやしないが、かといって自分から握るなどという行動もできやしなかった。
「エディー」
「なっ、なんだ!」
 顔を赤くさせて叫ぶと、ギールは未だ目を和ませて笑っている。なにが楽しい、とエディスは奥歯を噛みしめてギールを睨み付けた。
「手を繋ごうか」
 そう言って差し出された手の平をまじまじと見つめてからエディスは唾を飲み込む。拳を強く握りしめて、ギールを直視できないまま頷く。
「お前が、そうしたいなら……」
 目線を外して、小さく口の中で呟くとギールは笑い声を零した。

END

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プロフィール

HN:
結月てでぃ
性別:
非公開

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